奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ダディ、アリスターにあいにきてくれる?」

「ああ、必ずアルフォンスドーテに行くよ」

「アリスター、おっきくなったら、ダディのおよめさんになる」

「お嫁さん?アハハッ、それは最高に嬉しいけど。パパが何て言うかな?」

「パパ、アリスター、ダディのおよめさんになる。いいでしょう?」

「いいわけないだろ。ピエールは絶対ダメ。大体、ピエールはアリスターの父親だし法的にも結婚は出来ないんだよ」

「うわぁーん!だったら、パパと一緒にいかない」

 いつもは大人のいうことをよく聞くアリスターが、ダダをこねるように両足をバタバタさせ、大きな声で泣き叫んだ。

「お前さ、子供相手に何を向きになってんだよ。ジョークだろジョーク」

「何がジョークだよ。俺は大真面目だ。お前だけは絶対ダメだからな」

 ピエールは泣いているアリスターを抱いてあやしている。

 フローラが俺達に視線を向け、ゆっくりと喋りかけた。

「ピエールと……、はなしが……したいの」

 俺はフローラの言葉に頷いた。

「アリスター、パパとジュースを買いに行こう」

 俺はピエールの腕から、アリスターを抱き上げた。

「アリスターはオレンジジュースがいい」

「わかった。売店でオレンジジュースを買おうな」

 機嫌の治ったアリスターを抱き、俺は病室を出た。

 ピエールの胸の内を思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 これからフローラと離婚し、我が子として育てたアリスターと離れて暮らすなんて、ピエールは身を引き裂かれる思いに違いない。

 アリスターも父と慕い、一緒に暮らして来たピエールと別れるのは、あまりにも辛いだろう。

「アリスター、ごめんな」

「パパ、ダディとまたあえるよね」

「ああ、勿論。いつだって逢えるよ」

 ピエール……。
 アリスターを心優しい女の子に育ててくれてありがとう。

 俺はお前に、どれほど感謝しても足りないくらいだ。
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