奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【23】幸せな未来へ
【アダムside】

 ――翌月、俺はフローラとアリスターと三人でプランティエ駅にいた。離婚届はすでにピエールが提出し、俺達の婚姻は百日後に認められることとなった。

 フローラの車椅子を小さなアリスターが一生懸命押している。

 ピエールはアリスターに泣かれると、別れが辛くなるからと、敢えて仕事を休まず、プランティエ駅に見送りには来なかった。

 アリスターは四歳の誕生日に、ピエールからプレゼントされた熊のぬいぐるみを、大事そうに右手に抱えていた。

 蒸気機関車の寝台車に乗り込み、車窓からプランティエの街を見る。この街で過ごした様々な出来事が、脳裏に浮かんでは消えた。

 隣に座っているフローラの手を、俺はしっかりと握り締めた。

 ◇

 ―イヴピアッチェ王国 王都アルフォンスドーテ―

 マルティーヌ王国とは比べものにならないくらい、温暖な気候だ。

 空は青く澄みわたり、あまりの心地よさに、小さなアリスターは空に向け両手を広げた。

「パパ、きもちいーい!」

「そうだね。気持ちいいー!」

 フローラが俺達を見つめて笑っている。

「フローラ、寝台車で疲れただろう。もう少しの辛抱だよ」

「……大丈夫。楽し……かったよ」

 アルフォンスドーテの家までは、介護用の車を頼んだ。

 新しい家はリハビリセンターまで徒歩十分の距離。俺の勤務先は隣接するアルフォンスドーテ総合病院。

 家は全室バリアフリーにリフォームを済ませ、車椅子で自由に部屋を行き来できるように段差を無くした。

 家に着くと、住み込みのメイドが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。ロサ ヒルトゥラです。宜しくお願いします」

「ロサ、フローラと娘のアリスターだ。これから宜しく頼む」

「はい。家庭教師のセシル ブルンネは夕刻ご挨拶に伺うとのことです」

「わかった。フローラとアリスターに冷たい飲み物を頼む」

「はい。畏まりました」

 リビングには大きな窓がある。
 窓からは、コバルトブルーの海と白い砂浜が見える。まるで一枚の絵画のようだ。

 リビングの白い壁には、フローラの描いた虹の絵画。

 フローラはその絵画に気付き、俺を見て微笑んだ。

「パパ、にじがきれいだね」

「アリスター、ママが描いたんだよ。綺麗だろ」
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