奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「パパ、アリスターのおえかきもはってね」

「ああ、この壁いっぱいに、アリスターの絵もママの絵も飾ろうな」

「わぁーい!やったぁー!」

 フローラが笑顔でアリスターを見つめた。俺は跪き車椅子に座っているフローラを抱き締めた。

「フローラ、心から愛してるよ」

「私も……心から愛してる」

「アリスターもパパとママをあいしてるよ」

 左手でアリスターを引き寄せ抱き締める。

 三人の新しい生活が、ここから始まる。

 ――翌日から、フローラはリハビリセンターに通った。アリスターと一緒に過ごしたいからと、入院ではなく通院を選んだ。

 看護師の資格を持つメイドが、フローラとアリスターの身の回りの世話をしてくれ、ガーネット芸術大学出身の家庭教師は、アリスターに勉学だけではなくピアノやバイオリンも教えてくれた。

 家庭のことは、メイドと家庭教師に任せ、俺は安心してアルフォンスドーテ総合病院で内科医として勤務することが出来た。

 ◇

 一年後、フローラは何度も風邪をこじらせ、肺炎を併発。抵抗力も免疫力も低下しているフローラは、毎日が闘いだった。

 そのフローラが、リハビリの甲斐もあり、自分の力で立ち上がることが出来るようになった。

 歩行はまだ出来ないが、ベッドから車椅子へ、車椅子からベッドへ、自分の腕の力だけで移ることが出来るようになった。

 途切れ途切れで聞き取りにくかった言葉は、かなりスムーズに話せるようになり、聞き取りやすくなった。

 リハビリセンターの担当医師は、『奇跡だ』と言ったが、俺はフローラの『努力の成果』だと思っている。

 奇跡があるとしたら……
 この素晴らしい奇跡は……
 小さな天使が、もたらした無償の愛……。
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