奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
エピローグ
 イヴピアッチェ王国 王都アルフォンスドーテに移住し、三年が経過した。

 休日、フローラの車椅子を押しながら、海岸沿いの歩道を散歩する。

 波の音と、潮の香り……。
 俺達の気持ちを、優しく包み込む青い空。

 アリスターは七歳になり、アルフォンスドーテ音楽大学附属初等部に通っている。

 久しぶりに訪ねてきたピエール。
 砂浜で仔犬と遊んでいたアリスターは、ピエールを見つけ瞳を輝かせた。

「ダディ!ダディー!」

「アリスター!」

 砂浜を全速力で走り、ピエールに抱き着くアリスター。まるで、恋愛ドラマの再会シーンみたいだな。

 俺とフローラは顔を見合せ微笑む。

「パパ、私、ダディのお嫁さんになるからね」

 いまだにアリスターは、そんな言葉で俺を脅す。ピエールがプランティエ大学附属病院の女医と婚約したことは、アリスターにはまだ知らせていない。

「まだそんなことを言ってるのか……。ピエールはアリスターの父親なんだよ。結婚は出来ないんだよ」

 俺は子供の言葉にヤキモチを妬く。
 ピエールはそんな俺をからかうように、アリスターを抱きしめて離さない。

 でもそれは……
 微笑ましい親子の光景だった。

 ◇

 ――突然、青空が黒い雲に覆われ、ゲリラ豪雨になった。俺達は花屋の軒先で雨宿りをする。

 雨は激しく地面を叩きつけるように降ったが、嘘みたいにピタリと止んだ。さっきまで空を覆い尽くしていた黒い雲は、太陽に追いやられるように流れていく。

 青い空と……
 蒼い海……

 青空に……
 ぼんやりと浮かんだ……
 淡いパステルカラーの虹……。

 アルフォンスドーテで見る初めての虹だ……。

 俺はフローラを見つめた。

 フローラは俺を見上げ、微笑んだ。

「フローラ綺麗だね。あの日に見た虹みたいだ……」

「本当に……綺麗ね……」


 虹は太陽の陽を浴び、きらきらと光って見えた。

 俺達の……未来に続く……

 愛の架け橋のように。





 ~THE END~
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