奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【3】留学
 七月の下旬、ルービリア駅。
 駅構内にはたくさんの人で溢れている。

 プランティエに旅立つピエールを、ロンサール公爵家の家族や使用人、友人達と見送る。

 サマーバケーションを利用した一ヶ月の留学なのに、公爵家の子息ともなると、こうも大袈裟なのか。

 汽笛を鳴らし、蒸気機関車が駅に入る。

 両家公認の二人は、熱い抱擁をし熱烈なキスを交わした。キスの水音が鼓膜に響くくらいの激しいキスだ。

 俺とジュリアはピュアな関係。視線のやり場に困り、顔を見合せ慌てて視線を逸らした。

「ピエール、お前には羞恥心ってものがないのか。みんなが見てるのに、遠慮しろよな」

「それはこっちのセリフだぜ。シャルルと一ヶ月も逢えないんだ。恋人が別れを惜しんでキスをして当然だろ」

 ピエールは笑いながら、何度もシャルルにキスを繰り返した。シャルルもまたロンサール公爵の前で堂々とそれに応じている。

 だがこれは、ロンサール公爵に対して、さもピエールが服従していると見せるための、演技なのかもしれない。

 自分の感情を表に出すことが苦手な俺は、嬉しい時も悲しい時々も、心に留めてしまう悪い癖がある。

 恋愛に関しては特にそうだ。

 交換日記で親近感を抱くものの、ジュリアの真っ直ぐな気持ちに応えることが出来ない。

 俺とジュリアは今でも『友達』だ。
 ピエールとシャルルみたいに『恋人』にはなれない。

 ジュリアのことを可愛いと思うけど、恋しい感情とは異なる。同学年だけど、少し幼さの残るジュリアは、俺にとって妹みたいな存在だった。

 ――何故なら……。

 俺は、いまだに……
 あの雨の日に出逢った女性に、恋心を抱いていたからだ。
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