奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ――それから半月。
 サマーバケーションも終わり、ピエールの留学は終了した。

 寄宿舎で勉強をしていると、けたたましい電話の音に思わずペンを置く。

「ウィンチェスターさん、ロンサール公爵のご子息から電話ですよ」

 いつもより優しい管理人の声。
 電話の相手で管理人の声も変わるんだ。

 階下に降り電話に出ると、鼓膜を突き破るような、ピエールの大声が響いた。

『アダム!聞いてくれよ!』

 ピエールは興奮気味だった。俺はてっきりシャルルのことで、憤慨していると思っていた。

 でも、違ったんだ。
 次の瞬間、シャルルの言葉が現実になった。

『アダム、俺、プランティエで運命の女に出逢ったんだ。俺も引き続きプランティエ大学に交換留学することにした。宜しくな』

 ピエールの口から飛び出した言葉に、俺は仰天している。

「は?交換留学?もう締め切り過ぎただろう」

『締め切りなんて、俺には関係ないよ。プランティエ大学の理事長には父が話をつけた。もう執事が多額の寄付金を渡し手続きを済ませたはずだ。交換留学の準備のために、とりあえず一時帰国した。詳しい事はまた大学で話すよ』

 ピエールは自分が言いたいことだけ、一方的に話すと電話を切った。

 公爵家の令息は、何をするにも自由なのか。プランティエ大学側が締め切り後に受け付けてくれるなんて、平民の俺にはさっぱり理解出来ない。

 全ては、権力と財力……。
 それは社会も大学も同じ。

 シャルルは知っているのか?
 どっちもどっちだな。

 所詮その程度の関係だったんだ。

「ほんとにいい加減なやつらだな」

 ――翌日、一ヶ月ぶりにピエールと再会する。

「アダム、お前、ジュリアと進展したか?」

「俺達のことより、本気で交換留学する気か?」

「勿論さ。お前、運命って信じる?運命って本当にあるんだよ。彼女に出逢った時、体中に電流が走ったみたいに、ビビビッて感じたんだ。他の女には一度も感電したことないからな。今度こそ本物だよ」

「何が感電だ。意味わかんないよ」

「彼女はプランティエ大学じゃないんだ。王都プランティエにあるガーネット芸術大学に在籍中で、王立図書館で受付の助手をしてたんだ。そこで運命の出逢いをしたってわけ」

 ピエールは自慢気に鼻先を指で弾いた。
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