奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「運命か……。初めて留学して、他国の女性と付き合って、珍しいだけだろ?」

「他国?違うよ。彼女はルービリアに住んでいたんだよ。やっぱり本国の女性が一番しっくりくるよな」

「何だよ。ルービリアの女性なのか?お前、シャルルとのことはもういいのか?結婚前提だったんだろう?」

 ピエールは上着のポケットから煙草を取り出し、口にくわえライターで火を点けた。

「シャルル?昨日帰国したと電話したら、『新しい恋人が出来ました。ピエールは政略結婚なんて望んでないのでしょう。別れて下さい』って言われたんだ。よりによってトーマス グラハムと付き合うなんて、信じられないよ。グラハム家は伯爵だ。ロンサール家よりも劣る爵位の家柄、しかもトーマスは常に二、三人の女をはべらせている遊び人だ。遊ばれてんのがわかんないのかな」

「お前、それ知ってて、そんな奴にシャルルを渡していいのかよ」

「いいも悪いも、シャルルがトーマスに惚れたなら仕方がないだろ。たった一ヶ月で浮気する女なんて、興味ねーよ」

「よく言うよ。お前もだろ」

「シャルルが先に浮気したんだ。俺は遊びじゃない。今度は本気なんだ。彼女のためなら、何でも出来る。ルービリア大学には戻らなくてもいいと思っている」

「いずれはプランティエ大学に転入するつもりなのか?」

「それくらい本気だってことさ。とにかく俺はもう他の女とは付き合わない。彼女だけに愛を注ぐ。父の言いなりにはならない。自分の伴侶は自分で決める」

「相変わらずキザだな」

 俺は半ば呆れながら、ピエールの話を聞いていた。ピエールのことだ、一生に何度運命の女性と出逢うかわからない。

この熱い気持ちが、あと何ヶ月キープ出来るのか、あてにはならない。
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