奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「折角、お前と離れられると思ったのにな」

「なんだよアダム、本当は嬉しいくせに。俺達は親友だ。いつだって俺達は一心同体。俺はお前の一番の理解者で、一番の味方だ。お前もそうだろ?」

 ピエールは笑いながら、俺の肩を叩いた。

 俺達は一心同体か……。
 ピエールは公爵家の令息。俺達の未来はあまりにもかけ離れている。

「お前がプランティエに来たら、真っ先に紹介するからな。絶世の美女だ。あまりの美しさに腰を抜かすなよ」

「よくいうよ。本当に付き合ってるんだ」

「まぁな、恋人……みたいな?」

「疑問形かよ?お前らしくない」

「それだけ俺は、彼女を大切にしてんだよ。一線を越えなくても、俺と彼女は恋人だ」

「そういうことか」

 ピエールの言葉に、思わず苦笑い。
 女性に手の早いピエールが、運命だと豪語する女性に手も足も出せないなんて、想像しただけで滑稽だった。

「お前こそ、ジュリアとどーなってるんだよ?交換日記してるんだろ?キスくらいしたのか?もう抱いたのか?」

「バ、バカ、俺達はお前とは違うんだよ。ジュリアとは友達だよ。それ以上でもそれ以下でもない」

「向こうはそう思ってないだろ?ジュリアは一途だし、お前に本気で惚れてるよ。シャルルみたいに次から次へと男を変えるような女じゃないしな。留学しても浮気はしない」

「わかってるけど。俺は……あの傘の女性に……一目惚れって言うか……。片想いしてるっていうか……」

 ピエールが目を丸くして俺を見た。

「傘?えっ……?あの傘の女か?お前、数ヶ月以上も前の話だぜ。もう、非現実的な妄想の女だ。二十歳《はたち》越した男がプラトニックラブだなんて、笑っちまうな」

 ピエールは口角を引き上げケラケラと笑う。

「悪かったな。だから俺はお前とは違うんだよ。笑うな」

「ごめん、ごめん。純情にも程があるぜ。傘一本でお前を堕とす女って、どんな女なんだろうな。是非、逢ってみたいものだ」

「どうせ俺のことをバカにしてるんだろ。だから言いたくなかったんだよ」

 ピエールの言う通り……
 もう数ヶ月以上も前の話だ。

 あの時の記憶も……
 あの時見た綺麗な虹も……

 全て空想の中の出来事みたいに、月日を重ねる度に薄らいでいく。

 記憶の中で微笑む彼女……
 綺麗な黒髪……
 甘い香水の香り……
 優しい眼差し……。

 もしも、あの日の出逢いが、現実であるのなら……

 もう一度……

 彼女に逢いたい。
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