奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 俺達の留学準備は着々と進んだ。ただひとつ誤算だったのは、ピエールとルームメイトになることだ。

 急遽留学延長を決めたピエールは、俺のアパートに転がり込むことになった。わざわざ俺が契約した学生用のボロアパートに転がり込まなくても、ロンサール公爵の子息らしい邸宅に住めばいいものを。

「ていうか、何で俺のアパートなんだよ」

「プランティエでのホームステイは一ヶ月の約束だったし、父が学費や生活費は出すが、アパートくらい自分で見つけろって、無理難題をいうからさ。どうやらプランティエ大学の理事長に頭を下げさせたことが、よほど気にいらなかったらしい。『プランティエでは、ロンサール公爵家の名を出してはならない。執事の力を借りてはならない』だなんて、意味わかんないだろう。俺が一人でアパートを探せないことくらいわかってるくせに」

「こっちが意味わかんないよ。だからって、俺のアパートだなんて父親に負けを認めたようなものだろう」

「父親に負けを認めてないから、俺は医大に入ったんだよ。父とは別の人生を歩む。そう決めたんだ。アダム、一ヶ月だけ同居させてくれよ。その間にアパート探すからさ」

「仕方ないな。一ヶ月だけだからな」

「サンキュー、さすが親友だ。俺の荷物も、お前のアパートに送ってもいいよな?」

「わかったよ。本当にどうしょうもないヤツだな。衝動的に行動するから、そうなるんだよ」

「あはは、恋は盲目って言うだろ。俺は彼女の傍にいたいだけなんだ」

 ピエールは悪びれた様子もなく、ヘラヘラと笑っている。

 ピエールに文句を言いながら、安堵している俺がいる。

 初めての留学。
 隣国だが一人きりだとやはり心細い。

 信頼出来る親友がいる。
 心を許せる話し相手が傍にいる。
 それだけで、妙に心強かった。

 学業が目的の俺と、恋人の傍にいることが目的のピエール。留学目的は異なるけれど、異国の地で生活することに違いはない。

 俺は新たな生活に、期待で胸を膨らませた。
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