奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【4】親友の恋人
 九月になり、いよいよ留学することになった。

 出発日、ルービリア駅にはピエールの母親とロンサール家の使用人が多数見送りに来ていた。ピエールの母親はまるで永遠の別れみたいにオイオイ泣いていた。だがそこにピエールの父親の姿はなかった。

 俺の見送りは友人が数人。父は昨日電話があったが、今日は仕事で見送りには来れなかった。

 たくさんの人でごった返す構内に、ジュリアの姿もあった。ジュリアは大きな目に涙をいっぱい溜め、長い睫毛を濡らしている。

「……私、手紙を書いてもいいですか?」

「ああ、いいよ。これ、最後の交換日記。今までありがとう」

 俺は泣いている彼女に日記を手渡す。
 いつも小さな文字でびっしりとノートを埋めていたジュリア。俺はいつも数行だった。最後に『今までありがとう。お互い目標に向けて頑張ろう』とだけ記した。

 泣きながら口元に笑みを浮かべたジュリアが、可愛いと素直に思えた。

 俺達はみんなに別れを告げ、蒸気機関車に乗り込む。ルービリアと暫くお別れだと思うと感慨深かった。

 蒸気機関車が発車し、胸を熱くしている俺とは対照的に、ピエールは見るからに上機嫌だった。

「嬉しいな。彼女にまた逢える。俺さ、プランティエに滞在している間、毎日図書館に通いつめたんだ」

「お前が図書館か。全然似合わないな」

「何がだよ。確かに、分厚い本は見ただけで拒絶反応示したけどな。デートもしたんだよ。観劇、乗馬、美術館。それとにプランティエの夜景。プランティエの夜景はムード満点でさ。ルービリアに戻る前日、感極まって彼女を抱きしめ熱いキッスを交わした」

「……お前、もうそこまでしたのか?」

 僅か一ヶ月の留学で、よくやるよ。

「ははは、キスは当たり前だろ。早く彼女に逢いたいな。俺から離れられないようにキスしまくるのに」

 プランティエ駅到着まで、ピエールのノロケ話に付き合っていられないよ。
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