奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 プレイボーイのピエールを、こんなにも夢中にさせた女って、どんな女性なんだろう。

「ピエール、俺、一眠りするから。昨日徹夜で医学書読んでたんだ」

「えー、もう寝るのかよ。もっと、たくさん彼女のことを聞いて欲しいのに」

「もう十分だよ。お前のニヤケた顔見てるだけで超うざい」

「言ったなコイツ」

 俺達は機関車の中でもふざけ合っていた。今から始まる新しい生活にテンションは上がり、俺達は興奮していた。

 ―マルティーヌ王国 王都プランティエ―

 ルービリア駅から十時間以上の時間を経て、俺達はプランティエ駅に降り立つ。

「前回の留学は、ホームステイ先の家族が迎えに来てくれたけど、今回はそれもなし。けど、俺が道案内してやるから安心しろ」

 ピエールは歩調を速め俺を促す。
 一ヶ月の留学で交通手段をマスターしたピエールは、平然と乗り合い馬車に乗り込む。

「お前、金はあるのか?」

「俺を誰だと思ってんだよ。ロンサール公爵の子息だぜ。乗り合い馬車くらい顔パスさ」

「おい!ここはルービリアじゃないんだ。そんなの通用するわけないだろう」

 俺とは異なる金銭感覚、先が思いやられるよ。

 乗り合い馬車はプランティエの街を走る。多国籍民族の集まるプランティエでは、この街の住人の肌の色も言語も様々だ。

 マジェンタ王国は、マルティーヌ王国に比べると保守的な国だ。

 俺、この国で上手くやっていけるかな。
 俺の不安を見抜いたピエールが、俺の肩をポンと叩いた。

「お前なら、大丈夫だよ」

 乗り合い馬車に揺られること三十分。
 王都プランティエの街外れに学生専用のアパートがあった。

 築年数も古く、外観は今にも崩れ落ちそうな木造住宅だ。ピエールはそのアパートを見上げ「オーマイゴー……」と、溜め息を吐いた。
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