奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「お前さ、もう少し何とかならなかったのか?いくら学生専用アパートの家賃が格安とはいえ、ほどがあるぜ。プランティエ大学までは徒歩で行けるけど、盛り場で遊ぶには不便だよな」

「あのさ、俺達は医学の勉強をするためにプランティに来たんだよ。わかってるのか?嫌なら、ここに住まなくていいよ。ネオンがチカチカしてる繁華街に住めばいい」

「まあそう言うな。『これで十分です。雨風さえ凌げれば大満足。どうか一ヶ月ここに置いて下さい』って、俺が頭を下げればいいんだろ?」

 ピエールは笑いながら、俺に視線を向けた。

「仕方ないな。暫く置いてやるか」

 俺は笑いながら、アパートの中に入る。学生専用のアパート。気難しげな管理人から鍵を受け取り、俺達は二階に行く。

 間取りはLDKと洋間が二部屋。
 ルービリアの寄宿舎とは異なり、室内は部屋数も多く広々としていた。

 ルービリアから届いた荷物は、管理人立ち合いの元、室内に無造作に運び込まれていた。

 備え付けのベッドや家具。
 キッチン用品やソファーもある。

 それなのに、ピエールは高級なダブルベッドと革張りのソファーをわざわざルービリアから送っていた。

「俺、板張りのベッドじゃ眠れないんだよ。マットレスがないとな、悪いな」

「わかってるよ。ピエールが気に入った部屋を使えばいいさ」

「サンキュー。ダブルベッドだから、広い方の部屋を使わせてもらうよ。一ヶ月で出て行くからさ」

「はいはい」

「ああ腹減ったな。アダム、まずは食料補給だ。買い物に行こうぜ」

 留学初日、一人だったら外出も億劫になるところだが、ピエールと一緒だとそんな不安も吹っ飛ぶ。

 アパートから歩いて数分のマーケットで、俺達は焼きたてのパンや新鮮な野菜や肉などの食料品を買い込む。

 金銭感覚が麻痺しているピエールは、山ほどの高級食材を買い込みキャッシュで支払った。

 買い物も手慣れたものだ。

「周りは外人ばかりだな」

「当たり前だろ。俺らが、外人なんだよ」

「あっ、そっか……」

 俺達は食材の入ったビニール袋をさげ、マーケットを後にした。
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