奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
『いや、何でもない。だったら話が早いな。今夜俺達のアパートに来ない?俺、急いで戻るから』

「クルーズさんのホームパーティーはいいの?どうしようかな……」

『ホームパーティーはまた次の機会にゆっくりさせてもらう。フローラにアダムのことを紹介するつもりだったけど、知り合いならその手間も省けるし。三人で食事しようよ』

「うん、わかった。アパートのキッチン借りていい?何か作って待ってるね」

『じゃあ出来るだけ早く帰るよ。フローラ、愛してるよ』

「……ピエール。あとでね」

 彼女は頬を赤らめ電話を切った。

 俺はすごく複雑な気持ちだった。

 ピエールとの会話は受話器から少しだけ漏れ出る音声と、彼女の言葉しか俺には聞こえなかったけど、彼女の仕草や、顔の表情、弾む声を聞いているだけで、ピエールに対してジェラシーを感じていることに気付く。

 俺達はその後も館内を二人で歩き、絵画を見た。

 美術を専攻している彼女は、画家や絵画にとても詳しくて、俺に絵画や画家の説明をし、瞳をキラキラ輝かせている。

 俺はそんな彼女に見とれていた。

 眩い笑顔は……
 あの日と同じ……。

 午後六時、美術館を出て彼女をアパートまで案内した。

「古いアパートだから、驚かないで」

「大丈夫だよ。同居の理由はピエールから聞いてるから。ピエールがあなたのアパートに転がり込んだんでしょう?」

「あはは、よく知ってるね。ピエールが急遽交換留学したいって言い出すから、マンション探しが間に合わなくて、ロンサール公爵にも自力で探すように言われたみたいなんだ」

 そう……、ピエールがロンサール公爵に反抗してまで長期留学にした理由は……。

 ――君の傍にいたいから……。

 アパートの前に立ち、彼女は目を細めて笑った。

 呆れているのかな?

 確かに築年数の古い木造住宅だけど、塗装がはげた外壁や少し錆びた窓枠。この古びた感じが、生まれ育った町を思い出し、どこか懐かしくて俺は嫌いじゃない。

「素敵ね」

「……えっ?素敵?」

「温もりとプランティエの歴史を感じるわね。この街の風景を描いてみたくなる」

「……そうかな」

 伯爵令嬢なのに、感性が自分と似ていて、ちょっと嬉しかった。

 アパートに入り、部屋に案内する。
 彼女は楽しそうに室内に視線を向ける。

「男性の二人暮らしなのに、綺麗にしてるのね」
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