奪い婚 ～キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい～

　リビングの窓を開けると、風が室内を吹き抜けた。

　彼女の美しい金髪が、風にサラサラ揺れる。

「ピエールはルービリア大学のことはあまり話してくれないのよ」

　ルービリア大学のことを話さない？
　女性関係の素行がバレたら困るからかな？

「そうなんだ。あいつは幼児期から英才教育を受けているから、コツコツ努力しなくても勉強が出来る天才タイプなんだ。もともと勉学にはあまり興味ないんだよ」

「お父様はロンサール公爵ですものね。実はね、私の妹もルービリア大学に通っているのよ」

「妹さんですか？」

　ルービリア大学にヴィリディ伯爵令嬢が在籍しているなんて、聞いたことがないな。
　もし在籍していたなら、すぐに噂になるはずだし、美女に目のないピエールが知らないはずはない。

「ルービリア大学の看護科なの。名前はジュリア」

「まさか……？ジュリアの苗字は確か……メイディランドのはず」

「アダムさんはジュリアのことを知ってるの？」

「俺達はジュリアと友達なんだよ。でも、どうして……」

「私達、血の繋がりはないの。両親が再婚したから。私は父の連れ子で、ジュリアは義母の連れ子なの。ジュリアは両親とヴィリディ家で同居しているけど、養子縁組は拒んでいるのよ」

「そうだったんだ。ジュリアが……君の義妹だったなんて……驚きだな」

　衝撃的な事実を知らされ、驚きを隠せない。ジュリアと交換日記はしていたが、実父が亡くなったことしか書かれていなかったし、母親がヴィリディ伯爵と再婚し、義姉がプランティエに留学しているなんて、今まで聞かされていなかったから。

　プランティエに来てから、毎日手紙も届くが、彼女のことは一文もない。

「私達、姉妹と言っても、一緒に住んでいたのは半年だけなのよ。私はすぐにプランティエに留学したし、ジュリアとも義母とも色々あったしね。お互い姉妹という感覚はないかな」

　彼女は窓に視線を向け、少し寂しそうに微笑んだ。

　裕福な家庭にも複雑な事情があるんだな。

「やだ。私、どうしてこんな話を……。ごめんなさい。ピエールにも話したことはないのよ。アダムさんといると、弱い自分を見せてしまう……」

「俺で良ければ、いつでも聞くよ」