奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ピエール、知ってた?」

「何?」

「フローラはジュリアと姉妹なんだって」

「えっ?ジュリアと?嘘だろ?ていうか、なんでアダムがフローラを呼び捨てにしてるんだよ」

「私がそう呼んで欲しいって言ったの。ピエールの友達は私の友達だもの。そうでしょう?」

「……何でそうなるかな」

 ピエールは不満げに口を尖らせ、俺を睨み付けている。

「そんなに怒るなよ。《《友達》》なんだから」

「ちぇっ」

「でも、ジュリアはお姉さんがいるなんて、一言も言わなかったぜ」

「ヴィリディ伯爵とジュリアの母親が再婚したんだって。ジュリアはまだ母親の姓なんだ。世の中……狭いな」

 ピエールが驚いて、フローラを見つめた。

「私も驚いてるの。まさかジュリアと二人が友達だったなんて。ピエールがジュリアのことを話してくれたら、もっと早くわかったのにね」

「ごめん。プランティエの生活を大切にしたかったから」

 ピエールは苦しい言い訳をする。
 本当はシャルルや他の女性との噂が、フローラの耳に入ることを避けたかったに違いない。

「それに、ジュリアとアダムは友達じゃないよ」

「……えっ?」

 ピエールが突然爆弾を放った。
 この場で、一番触れて欲しくない話題だった。

「ジュリアはアダムの恋人だから」

「嘘?アダムがジュリアと付き合ってるの?」

「違うよ!ピエール、何、いい加減なことを言ってるんだよ。俺とジュリアは友達だよ。付き合ってなんかいない」

 俺は……
 向きになっていた。

 フローラの前で、ジュリアと付き合っているなんて、言って欲しくなかった。

「友達と交換日記したり、毎日手紙を送るか?フツーしないだろ?」

「ジュリアから毎日手紙がくるの?」

 フローラは驚いたように、目を見開く。

「そうだよ。ジュリアはアダムに夢中だからな。こいつはその気持ちを知りながら、ジュリアに思わせぶりな態度を取ってるんだ。罪な男だよな」
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