奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「驚いたな……」

 フローラは俺に視線を向けた。
 フローラと目を合わせることができず、視線を逸らす。

「ピエール、ペラペラと余計なことを喋るなよ」

「アダム、何を慌ててるんだよ?お前らしくないな?素直に認めろよな」

「煩いな」

 俺はかなり憤慨していた。
 普段冷静な俺が、冷静さを欠くくらい動揺を隠せなかった。

 フローラはピエールの恋人なのに。

 俺が誰と付き合っていようが、彼女には関係のない話なのに。

 俺は何を慌ててるんだよ。

 ジュリアとのことを否定すればするほど、自分が空しくなる。

 ピエールはそんな俺を冷やかすように、ジュリアとのことを囃し立てた。

「ジュリアは純粋で可愛いよな。俺の義妹になるかもよ。そしたら……アダムは義弟か?」

「……やだ。ピエールったら。私達はまだ……」

「ごめん。例え話だよ。アダムと俺は親友だから、そんな関係になるのも面白いかなって思っただけだよ」

「そんな例え話は困るわ……」

 フローラは頰を染めて俯いた。

 違うんだ……
 違うんだ……

 俺は……君を……。

 喉に張り付いた言葉を、俺は口にすることが出来ない。

 夕食も終わり、ピエールの部屋で二人は寛ぐ。二人の楽しそうな笑い声。それもすぐに途切れ静かになった。

 二人の抱き合う姿を勝手に想像し、深い溜め息を吐く。

 苦しい想いを……
 断ち切らなければ……。

 デスクに座り、医学書を開き黙々と勉学に勤しむ。

 午後十時になり、ピエールの部屋のドアが開いた。

「アダム、勉強してるのか?フローラを送ってくるよ」

 俺は椅子から立ち上がり、ドアを開いた。目の前に立っていたフローラと視線が重なる。

「アダム、お邪魔しました。今日は楽しかったわ。おやすみなさい」

「フローラ、料理美味しかったよ。ご馳走様でした。おやすみなさい」

 仲良く出て行く二人。
 ピエールはさりげなく、フローラと手を繋ぐ。

 一瞬、ピエールと視線が重なり、俺は視線を逸らした。

 ピエールに見抜かれてはいけない。
 フローラへの想い……。

 二人を見送った後、部屋に戻りジュリアから来た手紙をデスクの抽斗から取り出した。
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