奪い婚 ～キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい～

　部屋を出て管理人に電話を借り、ジュリアに電話をかけた。フローラのことを、どうしても喋らずにはいられなかったからだ。

　電話はツーコールで繋がった。
　ヴィリディ家に電話をするのは、これで二度目だ。

「あの……。夜分に申し訳ありません。アダム　ウィンチェスターと申します。ジュリアさんはご在宅ですか？」

『アダムさん？本当にアダムさんなんですね。嬉しい。プランティエの生活には慣れましたか？今夜は二人で何を食べたんですか？毎日ちゃんと食べてますか？』

　メイドが電話に出ると思っていたが、ジュリアだったようだ。ジュリアは興奮気味で、いつもより甲高い声が鼓膜にキンキン響く。

「夜分に電話してごめん。どうしてもジュリアと話がしたくて。今日、フローラに逢ったんだ。ジュリアにお姉さんがいたなんて驚いた。ピエールとフローラは付き合っているんだよ」

　俺も興奮気味だ。
　こんなに早口で話すなんて、何年ぶりだろう。

『えっ？嘘……フローラに逢ったの？ピエール君と付き合ってるんだ……。私、フローラには随分逢ってないから。それに、姉妹といっても、血の繋がりはないし。お姉さんって言う感じではないの。強いて言うなら、友達……かな』

　ジュリアもフローラと同じ事を言うんだな。フローラが話した通り、複雑な家庭なんだ。

　フローラはヴィリディ家に自分の居場所が本当にないのだろうか。

　◇

　午後十一時過ぎ、ピエールがアパートに戻って来た。

「ただいま」

「ピエール、ちょっといいか？」

「なんだよ」

「お前さ、フローラがあの傘の女だったんだな」

「……ああ」

「お前、一目惚れだって言ってたよな」

　ピエールの真っ直ぐな視線に、俺の視線はみっともないくらい左右に泳ぐ。

　俺はフローラが好きだ。
　あの雨の日からずっと……。

　その気持ちは、今も変わらない。

「やだな。そんな話はもう忘れてくれ。フローラはピエールの恋人だろう」

「でもお前、かなりマジだったし」

「何言ってんだよ。確かに、お前の恋人が、あの日に出逢った女性だったとは、正直驚いたけど。俺に気を使わないでくれ。ただの思い出話に過ぎないよ」

「アダム……」

「ばーか、ピエールらしくないな。それよりフローラとジュリアが姉妹だったなんて驚いたよ。血も繋がってないし、複雑な家庭みたいだな」

「そうなのか？」