奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ピエール、何も聞いてないのか?」

「聞いてないよ。何で俺の知らないことを、アダムが知ってるんだよ」

「それは……。ジュリアに電話したから……」

 ピエールが俺に煙草を差し出す。俺は差し出された煙草を一本抜き取り口にくわえた。

「夕飯を食べながら、ずっと気になってた。ピエールがフローラを見つめる視線……」

「ばーか、普通だよ。何を勘繰ってんだよ」

「そうかな」

「俺は親友の恋人に手を出すほど、バカじゃないよ」

 俺は煙草の煙をフーッと吐き出す。向きになってる俺、かなり見苦しいかも。

「だよな。けど、お前、俺より《《ちょっとだけ》》、いい男だから」

「なんだよ、《《ちょっとだけ》》って」

「イケメンだし、癒し系だし。アダムは女には優しいからな。女心は掴めない男だけど」

「何言ってんだよ。それ、褒めてんの?けなしてんの?いつものピエールらしくないな」

「フローラは今までの女とは違うんだ。俺、本気だから」

「……わかってるよ。しっかり、捕まえてろよ」

 彼女をしっかり捕まえていてくれ。
 俺の気持ちが、ぐらつかないように。

 ◇

 それから俺達は、三人でよく逢うようになった。

「俺、邪魔だよね?」

「邪魔、邪魔、早く恋人を作って消えてくれ」

 ピエールは笑いながら、フローラと手を繋ぐ。

「そんな事ないよ。アダムも一緒だと楽しいわ」

 俺達は冗談が言えるくらい親しくなっていた。一歳年下の俺を、フローラは子供扱いする。

 親しくなるにつれ、フローラは俺達のアパートにも頻繁に訪れるようになった。

 フローラが作る夕食を三人で食べる。俺はピエールの《《親友》》であり、フローラの《《友達》》。

 それでも……彼女の傍にいられるだけで、嬉しかったんだ。
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