奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「お前に関係ないだろ」

 ピエールはポケットから煙草を取り出す。俺はそれを手で払い除けた。

「なにすんだよ」

「関係ないって。ベッティと付き合っているのか!」

「いちいち煩いんだよ。何で俺がプライベートなことで、お前に説教されないといけないんだ。フローラとも上手くやってるから。ほっといてくれ!」

「他の女と付き合って、上手くやってるだと!ふざけんな!」

 俺はピエールに殴り掛かる。
 ピエールはバランスを崩し、地面に倒れた。フワッと砂埃が上がり風に舞う。

「チェッ、バカバカしい。なに熱くなってんだよ」

 ピエールは俺を睨み付け、言葉を吐き捨てた。

「アダム、お前の気持ちはわかってるよ。フローラが好きなんだろ!でも、俺はお前にだけには、フローラを渡さない。どんなことをしても渡さないからな。よーく覚えとけ!」

 ピエールは立ち上がり、ズボンの砂を両手で払う。

 ピエールはもう一度俺を睨み付けると、背を向けベッティの元へ戻った。そして、俺に見せつけるように、二人は強く抱き合った。

 俺は許せなかった……。
 ピエールが許せなかった……。

 フローラがいながら、別の女性と浮気するピエールが許せなかった。

 ――大学の講義を終え、フローラのいる王立図書館に向かった。

 プランティエに来て、始めて図書館のドアを開く。館内はとても静かで人の話し声はしない。微かに靴音がしているだけ。

 周囲を見渡すと、館内の隅に小さな受付があった。俯いているが窓から入る太陽の日差しが、美しい金髪を照らす。

 俺は躊躇することなく、真っ直ぐ受付に向かう。

 下を向いて作業していたフローラが、ゆっくりと顔を上げた。
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