奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 絞り出すような声……。

 フローラは崩れ落ちるように、俺の胸に顔を埋めて泣いた。

 俺に……逢いたかった?

 俺も……逢いたかったよ。

 でも……その言葉にきっと深い意味はない。

 フローラはピエールの浮気を知り、不安なんだよな。その不安から逃れるために、友達の俺に救いを求めているに過ぎない。

 震えるフローラの背中に、そっと両手を回す。

 好きだよ……
 君のことが、好きなんだ……。

 そう言いたいけど、俺は自分の気持ちを口にすることが出来ない。

 ピエールと俺は……。
 あいつと俺は……親友だから。

 あいつの恋人を俺が好きになってはいけないんだ。

 そう思う心とは裏腹に、俺の手はフローラの華奢な体を抱き締めている。

 この手を……離したくない。

 ずっと……君を抱き締めていたい。

 フローラを泣かせるなんて……
 この俺が許さない。

 逢えなかった数ヶ月。
 その数ヶ月で、俺の想いはさらに大きくなっていた。

 ――俺は……
 君に何が出来る……?

 フローラがピエールのことを愛しているなら……。

 ピエールもフローラだけを愛してくれるなら……。
 
 俺は君の幸せのために、この手を離すことができるのに……。
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