奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【6】叶わない恋
【フローラside】

 私はアダムと美術館で逢って以来、ずっと心が揺れていた。

 アダムはあの雨の日に出逢った男性で、交際しているピエールの親友だった。

 何度か三人で逢う内に、ピエールの親友であるアダムに、友達以上の感情を抱き始めた。

 ピエールと二人きりでいるよりも、アダムと会話している時の方が、不思議と気持ちが安らいだ。

 ピエールのマンションに行くと、アダムに逢える。小さな子供みたいに、私の心は自然と弾む。

 こんな気持ちを…
 ピエールに言えるはずもなく。

 まして、アダムに自分の想いを伝えるなんて出来るはずもない。

 私の気持ちを察してか、ピエールが私のアパートの近くに引っ越してきた。

 ピエールのアパートと、私のアパートは歩いて数分の距離だ。

 嬉しいはずなのに……
 アダムに逢えなくなると思うと、私の心はキュッと締め付けられるほどに苦しくなる。

 ◇

 ――ピエールの腕の中……。
 ピエールに抱き締められているのに、好きな気持ちが薄らいでいくのが自分でわかる。

 唇が重なり……
 ピエールの肌のぬくもりを感じているのに、私は苦しくて苦しくて堪らなかった。

 いつしか、その行為に耐えられなくなり、自然とピエールを避けるようになる。

 自分の気持ちを偽り……
 嘘をついている事に罪悪感さえ感じ始めていた。
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