奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「アダム、俺達の前から消えろ!」

 ピエールは唇から滲む血を、右手で拭いながら、アダムを睨み付けた。

「わかった。今日は帰るよ。でもフローラを泣かせるような真似は二度とするな」

「フローラを泣かせるような真似?何もわからないくせに、知ったような口を聞くんじゃない!全部、お前のせいだ!」

「俺の……せい?」

 アダムが私に視線を向ける。鼓動がトクトクと音を速めた。

「そうだよ!お前がフローラを狂わせたんだ」

「俺が……」

「ピエール……止めて。アダムは関係ないでしょう。……お願い……止めて」

「アダム、フローラはお前には渡さない。フローラに金輪際近付くな」

 ピエールは私の腕を掴むと、アパートの中に入る。

 アパートの前に立ち尽くしたアダムを残し、私はピエールに腕を掴まれたまま自分の部屋の鍵を開けた。

 部屋に入るなり、ピエールは私を壁に押し付け乱暴に唇を重ねた。

 ピエールは荒々しくキスをすると、私の体に乱暴に触れた。

「ピエール……止めて。お願い……」

「なぜ?なぜ俺を拒む?そんなにアダムがいいのか?わかってるんだよ。フローラの気持ちは……わかってるんだ。アダムなんか忘れろ。アイツのことなんか、俺が忘れさせてやる」

「……ゃっ」

 ピエールは暴れる私を抱き抱えると、そのままベッドの上に体を沈めた。

 私はピエールが好きだったよ。

 優しいピエールが好きだった。

 優しかったピエールを、こんな風にしたのは全部私のせいなんだ……。

 私が……ピエールを裏切ったから。

 ピエールは苦しい心をぶつけるように、私を乱暴に抱きしめた。

 もう……私達は終わったんだ。

 私とピエールは……
 もう、元には戻れない。

 体が重なっても……
 心は……こんなに離れている。
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