奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【アダムside】

 俺は混乱していた。

 ――『お前がフローラを狂わせた』

 ピエールの言葉が、鼓膜にこびりついて離れない。

 俺が……フローラを狂わせた?

 俺の想いが、二人の関係を狂わせた?

 ピエールの浮気は、俺のせいだって言うのか?

 二人が立ち去った後、俺は呆然とその場に立ち竦む。

 陽が落ち薄暗くなった歩道に、街灯がつく。街灯が灯ったと同時に、フローラの部屋の電気が消えた。

 灯りの消えた室内……
 その意味するものは……。

 俺はフローラのアパートに背を向けた。
 二人の抱き合う姿を想像した自分が、惨めに思えたからだ。

 俺は何をやってるんだ。
 俺は何のために、プランティエに来たんだ。

 フローラに想いを寄せることが、こんなにも罪なことだったなんて。

 俺はピエールを苦しめるつもりも……
 フローラを苦しめるつもりもなかったのに。

 ただ……
 フローラのことを、心の奥底で想っていただけたのに……。

 俺はこのままプランティエにいる意味があるのだろうか。

 二人を傷付けてまでこの国にいる意味があるのだろうか。
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