奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【7】虹
 ――日曜日。

 外は大雨。
 突然の豪雨に、俺は何をするわけでもなく、アパートに一人でいた。

 ピエールと殴り合ったあの日から、俺は勉強に集中する事が出来なくなっていた。

 デスクで医学書を開いても、あの日の光景が瞼に浮かぶ。

 泣き顔のフローラ……。

 君は……ピエールと付き合っていて、本当に幸せなのか?

 君が幸せなら、俺はそれでいいんだ。

 そう思っているのに、心が苦しくて堪らない。

 玄関ドアがノックされ、俺は立ち上がる。

 ドアを開くと、そこに立っていたのは……。

「……フローラ?どうしたんだよ。ずぶ濡れじゃないか」

 フローラは傘も持たず、美しい金髪からは水滴が落ちる。

 青白い顔……
 震える唇……

「入って」

 俺は脱衣場から白いバスタオルを取り出し、フローラに渡した。

 フローラは濡れた髪を拭きながら、震えている。

「……寒いよ」

「お風呂入る?体を温めた方がいいよ」

 フローラは首を左右に振った。

「いいの……」

「フローラ?どうしたんだよ」

「……アダム。私ね、もうピエールとはダメなんだ」

「ダメって……。ピエールはまだフローラのことを……」

「ピエールじゃないの。私が……もうだめなんだ。ピエールと一緒にいられない……」

「……どうして。あんなに仲がよかったのに」

 フローラは濡れた瞳を、俺に向けた。
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