奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「アダムに出逢ったから……。アダムが好きだから……。もうピエールに嘘はつけない」

「俺が……好き?」

 フローラの大きな瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。

 ――その涙を見た瞬間……
 心の奥底に潜んでいた気持ちが溢れ出す。

 激しい雨音が、俺達の沈黙を埋める。
 俺は震えているフローラの体を抱き締めた。

 雨に濡れて冷たくなった体を、白いバスタオルで包み込む。

「俺は……ずっとフローラの事が好きだったよ。あの虹を……二人で見た時からずっと……。ピエールとフローラが交際していると知った時は、苦しかった」

「アダム……」

 フローラの頰に涙がこぼれ落ちた。

「俺、ちゃんとピエールに話すから。わかってもらえるまで、何度でも話をするから……」

 コクンと頷いたフローラの冷たくなった頬を、両手で包み込む。

「だから泣かないで……」

 俺はフローラの額にキスを落とす。
 そして……形のいい唇に……
 優しく唇を重ねた。

 俺達は互いの想いを確かめ合うように、何度も唇を重ねた。

 激しく重なるキスに、息は上がり切ない吐息を漏らす。

 濡れた洋服を一枚ずつ脱がせ、俺達はベッドに沈んだ。

 俺は感情の昂ぶりを抑えることができず、冷静さを欠いていた。

 フローラへの熱い想いが……
 ピエールの存在をも消し去っていた。

 心の中は、フローラへの想いで埋め尽くされていた。
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