奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 激しく振る雨は、時折窓ガラスを濡らす。

 空は黒い雲で覆われ、あの日と同じ雨を降らせる。

 俺は……
 親友を裏切り、罪を犯す。

 けれど、フローラを想う気持ちはもう抑える事は出来ない。

 フローラの冷たくなった体を、俺の体温であたためた。柔らかな肌に口づけると、フローラは吐息を漏らした。

「……愛してる」

 フローラの溢れる涙を、唇で受け止める。

 軋むベッド……
 俺達は……ゆっくりと体を重ねる。

 心も体もひとつになった歓びから、涙が溢れて止まらなかった。

 俺の腕の中でフローラが俺を見上げた。俺はフローラの額に軽くキスを落とす。

 いつの間にか豪雨は止み、窓の外が急に明るくなった。

「……アダム……空を見て」

 フローラが窓の外を指差す。プランティエの空に、パステルカラーの虹が架かっていた。

 それは淡い彩《いろ》を放ち、今にも消えてしまいそうで、俺達は抱き合ったまま、まだ夢の世界にいるみたいだった。

「あの日に見た虹と同じだね。綺麗……」

「そうだな」

 七色の虹が、太陽の光に反射してキラキラと輝いて見えた。

 俺達は見つめ合う。

「俺を信じて欲しい。フローラを泣かせるようなことはしない。生涯、フローラだけを愛すると誓うよ」

「……アダム」

 フローラは俺の胸に顔を埋めた。

 ピエールが俺達のことを認めてくれるはずはない。そんな事は最初からわかっていた。

 でも、俺は……
 もうピエールにフローラを渡したくない。
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