奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【フローラside】

 ピエールとのギクシャクした生活。苦しみから逃れたくて、私の足は自然とアダムのアパートに向かった。

 突然降りだした雨。
 雨に打たれながら、自分の行動を責め続けていた。

 私は……
 何をしようとしているの?

 アダムとピエールを……
 二人を傷付けようとしているの?

 激しく降る雨は体温を奪い、心まで冷たく凍らせる。

 アダム……
 アダムに……逢いたい。

 ◇

 拒絶されると思っていたのに……。
 冷たくされると思っていたのに……。

 アダムは……こんな私を優しく包み込んでくれた。

 私はピエールを裏切り、罪を犯す。

 けれど、もう自分の気持ちを誤魔化したくはない。

 もう……
 嘘はつきたくない。

 アダムの唇……
 アダムの……広い胸……

 あたたかい肌のぬくもり……
 凍った心が、だんだん溶けていくよ。

 アダムが……好き。
 その素直な気持ちだけを、あなたに伝えたい。

 揺れる心……
 揺れる体……。

 白いシーツの上で、私達は愛し合う。

 シーツの擦れる音……
 アダムの優しい息遣い。

 窓の外は雨が止み……
 太陽が顔を覗かせた。

 ――あの日と同じ虹……。

 綺麗な虹が、プランティエの町を彩る。

 アダムの腕の中で……
 胸が熱くなり、頬を濡らした。

 もう……引き返せない。
 もう……戻れない。

 私の不安な気持ちを、アダムは優しく包み込んでくれた。
< 53 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop