奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ごめん。安いコーヒー豆しか買えなくて口にあわないかも」

 俺はジュリアに珈琲を入れて差し出す。リビングに珈琲の香りが広がる。

「いつまでプランティエに滞在するの?」

「一週間よ」

「一週間も?ホテルはどこ?あとでホテルまで送って行くよ」

 ジュリアが両手でコーヒーカップを持ち、俺に視線を移す。

「……ホテルは取ってないの」

「えっ?プランティエに親戚でもいるの?」

 もしかして……
 フローラのマンション……?

「ここに泊めてくれませんか?私……行く所がなくて」

「それは……ちょっと。俺、この付近のホテルをあたってみるよ。管理人に電話借りて空室があるか聞いてくる」

 椅子から立ち上がると、ジュリアが俺の手を掴んだ。

「お願い……アダム君。今夜はここに……」

 ジュリアは突然泣き出した。俺は状況が理解できず、戸惑いを隠せない。

 ジュリアは椅子から立ち上がり、俺に縋りつく。

「ずっと……逢いたかったの。フローラのことが好きって……本当なの?」

「そんなこと……誰から聞いたの」

「ピエール君……」

 ピエールがジュリアに余計なことを……。

 それでわざわざプランティエまで?
 でも……どうして?

「本当だよ。ピエールから何を聞いたか知らないけど、本当なんだ」

「嘘よ。フローラはピエール君の恋人なのよ……」

「嘘じゃないよ」

 ジュリアの右手は口元で小刻みに震えている。
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