奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 俺のアパートに泊まるなんて、フローラが聞いたら誤解してしまう。

「ジュリア、電話代わってくれない?フローラと話がしたいから」

「ごめんなさい。もう電話切れたみたい。アダム君、お願い。今夜だけでいいの。こんな時間にホテルなんて取れないわ。ソファーでいいから泊めて下さい」

 両手を合わせ懇願するジュリア。

「……ジュリア。管理人さん、電話ありがとうございました」

 管理人の好奇な視線を感じ、ジュリアの腕を掴み部屋に戻る。

 俺はその場でジュリアを突き放す事が出来なかった。

「仕方ないな。今夜だけだよ。シャワールームは自由に使っていいよ。俺のベッドを使って。俺は隣室のソファーに寝るから」

「……ありがとう。おやすみなさい」

「おやすみ」

 俺はピエールの使っていた部屋に入り、クローゼットから毛布を取り出す。

 そのままソファーに寝転がり、朝を迎えた。

 小鳥の囀りで目覚めた俺は、眠い目を擦る。

 部屋を出ると、キッチンでジュリアが朝食を作っていた。玉子焼きの匂いとトーストのこおばしい匂いが空腹の胃袋を刺激する。

「おはようアダム君。冷蔵庫の食材使わせてもらったわ」

「ジュリアおはよう。朝食はよかったのに。俺、いつも珈琲だけだから……」

「いつも珈琲だけ?朝食は大事なんだよ。せっかく作ったんだから、食べてね」

「うん、顔洗ってくるよ」

 俺は洗面所に向かう。カゴに溜まっていた衣類はなく、脱衣所のパイプに洗濯物がぶら下がっていた。洗面台のコップには、俺の歯ブラシの隣にジュリアの赤い歯ブラシが入っていた。

 ダイニングルームに戻ると、テーブルの上には料理が並んでいた。

 コーンスープ、オムレツ、ポテトサラダ。パンにはウィンナーやベーコン、レタスを挟み、サンドイッチにしてある。

「凄いね。早起きしたんだね。ゆっくり休めば良かったのに」
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