奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「泊めて貰ったお礼。アダム君、食べてみて」

「うん、いただきます」

 俺はふわふわのオムレツをフォークで掬い口に入れる。口の中に卵の甘味とケチャップの酸味が広がる。

「ふわふわで美味いよ。懐かしい味がする」

「本当?嬉しい!」

 ジュリアは小さな子供みたいにハシャイだ。料理の腕はフローラには敵わないけど、俺のために一生懸命作ってくれたことは十分伝わった。

 二人で談笑しながら、楽しく朝食をとる。食器を片づけながら、今夜はホテルに泊まってくれることを願った。

「俺、大学があるから。フローラと何処で会う約束したの?」

「ここにしていい?初めて来たからプランティエの街、よくわからないから」

「そうだよね。鍵を渡しとくね。フローラにプランティエの街を案内して貰うといいよ。小さなホテルなら幾つかあるし」

 俺は鞄を掴み、靴を履く。

「ジュリア行ってきます。ホテル決まるといいね」

「わかってる。アダム君行ってらっしゃい」

 玄関で手を振るジュリアは、ルービリアにいた時のジュリアとは、顔つきが違って見えた。

 ジュリアを泊めた事が、俺とフローラの運命を大きく変えてしまうなんて、その時の俺は考えてもいなかった。

 蟠りのある姉妹が、久しぶりに再会し少しでも溝を埋めることが出来たなら、それでいいと思っていたんだ。
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