奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【フローラside】

 ジュリアからの電話。
 ジュリアがプランティエに……。

 初めてのことに戸惑っている。

 ジュリアは本当にアダムのアパートに泊まったのだろうか……。

 アダムが……ジュリアを部屋に泊めるはずはない。

 半信半疑で身支度を整える。
 午後からは図書館での仕事もあるため、ガーネット芸術大学に登校する前に、アダムのアパートに向かった。

 アダムのことは信じていたけど、少しだけ不安だった。

 アパートのドアをノックすると、暫くしてドアが開いた。でもそこにいたのは、アダムではなく素顔でエプロン姿のジュリアだった。

 久しぶりに会うジュリアは、とても大人びていて、生き生きとした表情で私を出迎えた。

「フローラ、いらっしゃい。上がって」

 まるで自分の部屋に招き入れるみたいに、ジュリアは微笑む。

「捌けててごめんなさい。今ね、洗濯物をベランダに干してるの。男の独り暮らしはダメね。洗濯物たくさん溜めてるんだから」

 洗面所に視線を向けると、洗面台のコップには、青い歯ブラシと赤い歯ブラシが入っていた。

 ベランダにはアダムの服とジュリアの服が、仲良く風に靡いていた。

 まるで……一緒に暮らしているみたいに。

「ジュリア、どうしてプランティエに来たの?お父様に私の様子を見てくるようにと言われたの?」

「違うわ。アダムに会いに来たのよ」

「……アダムに?」

「やっぱり離れてるとダメね。寂しくて、アダムが恋しくなったの。手紙では肌に触れあえないもの」

「……ジュリア、あなたまさか」

「私とアダムは、ルービリア大学で付き合っていたの。ピエール君から聞いてない?もちろん今でも付き合ってるわ。アダムはプランティエに来てホームシックになったみたいね。よりによってピエール君の恋人であるフローラとそんな関係になるなんて。それともフローラがアダムを誘惑したのかな」

 ジュリアは小馬鹿にしたように、クスリと笑った。

「……なに……言ってるの?」

「アダムも本当は困ってるの。成り行きでフローラと関係を持ってしまって。フローラが本気になってるって、後悔していたわ」

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