奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 アパートのドアを開くと、ジュリアが笑顔で俺を出迎えた。

「アダム君、お帰りなさい」

「ジュリア、フローラに何を言ったんだよ」

「……何をって?」

 怒りを隠せない俺に、ジュリアの表情は曇る。

「フローラが俺にもう二度と逢わないって言ったんだ。一体何を話したんだよ!」

「別に……。昨日ここに泊めてもらったって言っただけよ。私達は付き合っているって言っただけよ」

 ジュリアは怯えたように俯いた。

「俺達が……付き合ってる?」

「そうよ。ルービリア大学にいた時から付き合ってるでしょう」

「俺達は友達だよ。付き合ってなんかいない」

「嘘よ。ルービリア大学で毎日のように逢ってたし。交換日記もしていたわ。プランティエ大学に留学してからも、毎日手紙を出したし、アダムも返事を送ってくれたでしょう」

「それは、友達として……。俺はフローラに付き合って欲しいなんて、一度も言ってないよ」

「……そんな……アダム君酷い。昨日もアダム君の部屋に泊めてくれたし、私の料理を美味しいって……」

 ジュリアは大きな目に涙を浮かべ、俺を見つめた。

「俺はフローラと付き合っているんだ。誤解されるような態度をとった事は謝る。昨日は宿泊先も決まってなかったし、夜遅かったから泊めただけだよ。ジュリアは俺の大切な友達だし、フローラの妹だから……」

「フローラの妹……?」

「さっき近くのホテルを予約してきた。案内するから今夜はそこに宿泊して欲しい」

「……い、嫌よ。ここにいたいの。アダム君……ここにいさせて。お願い…」

 ジュリアの目から涙が溢れた。

 交換日記も文通も、友達としてしただけで恋愛感情はない。ルービリア大学でもそう伝えたし、ジュリアもそれを了承していると思っていた。

 それなのに……
 ジュリアはそれを付き合っていると思い込んでいたなんて……。
< 64 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop