奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 俺の優柔不断な態度が、ジュリアもフローラも苦しめている。

 俺は号泣しているジュリアに、優しい言葉をかけることが出来なかった。これ以上二人を傷つけてはいけないと思ったんだ。

「ごめん。迷惑なんだ」

 心を鬼にして、俺はジュリアを突き放す。

「……迷惑」

「ああ、迷惑なんだ」

「そんな……」

 床に突っ伏し、ジュリアは泣き崩れた。

 ――ごめん……。

 そう言いたいのに、俺はその言葉が言えないでいた。

 ジュリアはしばらく号泣したあと、無表情な顔で立ち上がった。魂が抜けてしまったみたいに、顔面蒼白だった。

「……ホテルまで案内して下さい。ご迷惑を掛けて……すみませんでした」

 消え入りそうな声で、ジュリアは呟いた。

「ジュリア……」

 ジュリアはボストンバッグを手にすると、黙って部屋を出た。ホテルまでの道のりを、俺達は無言で歩く。

 外はもう暗くなっていて、街灯がぼんやりと足元を照らしていた。

 アパートから歩いて十五分、ホテルのロビーでチェックインし、ジュリアがベルボーイと階段を上るのを見届け、俺はアパートに戻った。

 部屋のダイニングテーブルには、ジュリアの作った夕食が並んでいた。二人分の食事は、もう冷たくなっていた。

 まるで……
 俺達の心みたいに。
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