奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ホテルマンが慌てて、ジュリアの上腕をタオルで縛り脈を確認した。微弱ではあるけれど、ジュリアはちゃんと自発呼吸をしていた。

 ホテルマンはすぐに町医者に連絡し、往診を頼む。

 血に染まったバスタブ。
 真っ青なジュリアの唇……。

 俺は……
 罪悪感に苛まれ、自分を強く責めていた。

 町医者の到着とほぼ同時に、フローラがホテルに到着した。血に染まったジュリアを見て、フローラは絶句した。

 町医者はジュリアを診察し、すぐに診療所に運ぶように命じた。俺達は一緒に車に乗り込む。

「……ジュリア」

 フローラの頬に一筋の涙が伝った。

 ジュリアは搬送先の診療所で、すぐに処置室に入り輸血を受けることになった。

 処置室の中は騒然としていた。
 俺達は処置室の前で呆然と立ち竦む。

「ジュリアは昔から何かあると、手首を切って……」

「手首を……?」

「……自分で自分の手首を傷付けるの」

 自傷行為を繰り返し、自殺未遂をする事例は知っているが、まさかジュリアが……。

「あの子の両手首には、無数の傷が残ってるの……」

 そう言えば、真夏でもジュリアは長袖の洋服を着ていた。『日焼けしたくないから』と、交換日記には書いてあったが、あれは手首の傷痕を隠す為だったのか……。
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