奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「父が再婚したあと、私はあの家にいずらくなった。他人同士が家族になるのはとても難しくて。でもそれは私だけじゃなかった。ジュリアも同じ気持ちだったのよ。両親が再婚して一ヶ月。ジュリアが自殺未遂を繰り返すようになった。医者が往診し、血に染まったジュリアを病院に搬送する。その姿を見る度に、私は怖くて……足の震えが止まらなかった」

 フローラの足はガクガク震え……
 顔は青白く、唇も震えている。

 俺はフローラの背中に手を回し、優しく抱き締めた。

「その後も……あの子の自殺未遂は止まらなかったわ。再婚したばかりの父と義母もピリピリしていて、あの家は気持ちの休まる場所ではなくなってしまったの。ジュリアの心の病は……誰にも理解できなくて。私は……ジュリアから逃げるように、プランティエに留学したのよ」

「そう……。ルービリアエ大学に通っていたジュリアは、そんな風に見えなかった。寧ろ大人しくて控えめな性格だと思っていたから……」

 ジュリアは大人しくて控えめな性格。
 内に秘めた激しい感情の起伏が、交換日記をしていてもわからなかった。

「ジュリアは父と再婚したことで、母親の愛情を私達に奪われてしまったと思ってるの。だから、自分は愛されていないと感じると、母親の愛情を取り戻すためにあんなことを……」

「……そうか」

「だけど今回は……。傷も深いし……バスタブで切るなんて。本当に死ぬつもりだったのかも……」

 フローラの言葉に、殴打されたくらいの衝撃を受ける。

 ジュリアを自殺に追い込んだのは……
 この俺だから。
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