奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【9】別離
 ジュリアが処置室に入り、三十分が経過。
 医師はマジェンタ王国出身で、母国語で説明を始めた。

「傷は縫合しておきました。輸血はしましたが、命に別状はありません。今夜一晩経過観察で入院し、明日容態が安定していたら退院していただきますが、精神状態は不安定なので、退院後ホテルで一人にする事はやめて下さいね」

「……はい、わかりました。ありがとうございました」

 ジュリアは一晩入院する事になった。

 俺とフローラは医師に深々と頭を下げる。
 病室に入ると、ジュリアは眠っていた。真っ青だった唇はほんのりと赤みがさしていた。

 ジュリアの手首には白い包帯が撒かれ、腕には輸血の針……。管には赤い血液が流れている。

 俺が優柔不断な態度をとったために、彼女を死の危険に曝した。

 フローラも……
 ピエールも……
 俺のせいで、苦しめている。

 ジュリアの心が悲鳴を上げている。
 『助けて欲しい』と、悲鳴を上げている。

「……アダム、ちょっといい?」

 フローラと二人で病室の外に出た。廊下の窓から、夜空を見上げる。

「……アダム。私達……終わりにしよう」

「フローラ……」

「アダムもそう思ってるんでしょう。私達……周りの人をたくさん傷付けてる」

 フローラの瞳に涙が浮かんだ。
< 69 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop