奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「人を傷付けて、得る幸せは……不幸でしかない」

 フローラと一緒にいたい。
 フローラの事が誰よりも愛しい。
 その気持ちに、偽りはない。

 だけど、フローラを愛すれば愛するほど、親友を裏ぎったことへの苦しみは深まる。

 それは、フローラも同じ……。

「……そうだね。俺達……」

 俺はフローラを抱き締めた。
 胸が熱くなり、涙が込み上げた。

「……俺……決めたよ。ジュリアとマジェンタ王国に戻る。ジュリアをヴィリディ家に送り届けるよ。留学も……打ち切りにする。ルービリア大学に戻る」

「アダム……」

「フローラのことは本気だった。今も……好きだよ」

 こんな言葉しか言えない自分が、もどかしくて、情けなくて……。

 俺達は泣きながら抱き合った。
 好きという気持ちだけでは、乗り越えられないものもある。

 フローラとジュリアは姉妹だから……。
 俺とピエールは親友だから……。

 フローラを泣かせないと誓ったくせに、俺はこんなにもフローラを苦しめている。

「……ごめんな」

 今の俺は、フローラに……
 詫びる事しか……出来ない。

 ――その夜、俺はジュリアに付き添い病室に泊まった。
 明け方、目を覚ましたジュリアは、目にいっぱい涙を溜め泣きじゃくった。

「……ごめんなさい……ごめんなさい」

「もう……いいから。泣かないで……」

 泣きじゃくるジュリアの手を、俺は握り締めた。

「自分を傷つけて死ぬなんて……もう二度と考えないで。俺とマジェンタ王国に帰ろう」

「アダム君……」

 その日、退院したジュリアを連れて俺は自分のアパートに戻った。ジュリアを一人にすることができなかったからだ。
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