奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ジュリア、俺は帰国の手続きをするため、プランティエ大学に行かなければならない。一人で留守番出来るよね」

「……大丈夫、もうあんなことはしないわ」

 俺はジュリアをアパートに残し、プランティエ大学に向かった。

 ――プランティエ大学の学生課――

 急な帰国となり、学生課の職員は眉をしかめた。

 帰国理由は『家庭の事情』だと偽り、留学期間を短縮し、ルービリア大学に復学することを告げる。ルービリア大学における自分の評価が下がることも、理解した上での決断だった。

 手続きを終えた俺は、構内でピエールの姿を捜した。ピエールはいつものように、講義にも出ないで、校庭で女性といちゃついていた。

「ピエール、ちょっといいか?」

 ピエールは俺に目も向けず、暴言を吐いた。

「誰だお前?目障りだ!俺の前から消え失せろ!」

「ピエール、俺、マジェンタ王国に帰国するよ」

「……帰国?」

 ピエールが俺に視線を向けた。

「フローラと別れた。フローラのことが心配なんだ。フローラの傍にいてやって欲しい」

「フローラと……別れた?」

「お前も荒んだ生活はやめろ。昔のお前に戻って欲しいんだ……」

 ピエールは唇を噛み締め黙っている。俺を睨み付ける眼差しは、憎しみよりも戸惑いの色を浮かべていた。

 俺はその場から立ち去る。背中にピエールの視線を感じながら、そのままプランティエ大学を出た。

 これで……いいんだ。
 これで……。

 自分自身に言い聞かせるように、俺はアパートに戻った。

「……アダム君。私のせいで……留学を取り止めたの?」

「違うよ。ジュリアのせいじゃない。これは俺自身の問題なんだ」
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