奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 一人の女性を幸せに出来ないなんて……
 俺は人を好きになる資格なんかない。

「私も……荷造り手伝っていい?」

「うん、頼むよ」

 ジュリアの手首には、白い包帯。
 ジュリアに対しての罪の意識が、俺の行動に拍車を掛ける。

 ――翌日、俺は荷物をルービリアへ送る手続きを済ませ、マジェンタ王国イージスに住む父に電話で詫びる。

「父さん申し訳ない。留学資金を援助してくれたのに、中途半端な事をして……」

 父は驚いていたが、声を荒げるわけでもなく、俺の話を聞いてくれた。

『自分で決めたことだ。ルービリア大学で頑張ればいい』

 俺はマルティーヌ王国に未練があった。

 やり残した勉強。
 親友との亀裂。
 フローラへの想い……。

 終わりにしよう。
 そう決めたのに、俺の心の中でフローラへの想いは日増しに膨らんでいく。

 絶ち切らなければならないのに……。
 瞼を閉じると、フローラの泣き顔が浮かび心は締め付けられた。

 ――翌日、プランティエ駅。

 俺はジュリアと一緒に、マジェンタ王国行きの蒸気機関車に乗り込む。ルービリアを出発する時は、たくさんの人に見送られたが、二人だけの出発だ。

 フローラにもう一度逢いたい気持ちはあったが、逢うと心が揺れてしまうため、知らせることはできなかった。

 発車のベルがホームに鳴り響く。
 傷付いたフローラを残し、この国を離れることは、胸が押し潰されるほど苦しい。

 ガタンゴトンガタンゴトンと、蒸気機関車は走り出す。だんだん小さくなるプランティエの街並み。正視することが辛くて、窓から視線を逸らす。

 俺の隣でジュリアが微笑んでいる。時折触れる手首の白い包帯。それを見るたびに、俺の心は罪の意識に苛まれた。
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