奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「……俺達は」

 シャルルは悪びれた様子もなく話し続けた。

「あら、隠さなくてもいいわ。アダムとジュリア、留学前に付き合ってたでしょう。二人で交換日記してたじゃない」

「それは否定しないけど、俺達は付き合ってないよ」

「嘘、皆付き合ってると思ってたのよ」

「まさか……」

「本当よ。それにジュリアも私達に『アダムと付き合ってる』って話してたし、仲良く帰国したみたいだし。ジュリアと離れるのが嫌で、アダムが留学期間を繰り上げたって、みんな噂してるわ」

「えっ?」

「今も付き合ってるんでしょう。毎日手紙のやり取りをするくらいだもの。相思相愛なんだよね?違うの?」

 俺は驚きを隠せない。
 ジュリアは俺と付き合ってると、ルービリア大学で吹聴していたのか?

「あっ、ジュリアだわ。アダム、またね。本当に二人は仲が良くて羨ましいよ。バイバイ」

 シャルルは別のテーブルで待たせていた恋人の元に走る。ジュリアと擦れ違いざま、シャルルはジュリアに何か耳打ちをした。

「アダム君、一緒に食べていい?」

「ああ、いいよ」

「シャルルに『仲がいいね』って言われちゃった。私ね、ランチボックス持ってきたの。アダム君に食べて欲しくて……」

 ジュリアは青色のランチボックスを俺に差し出す。

 ランチボックスの蓋を開けると、中にはチキンやポテト、野菜とチーズがたっぷり入ったサンドイッチ。

 綺麗に盛り付けられたランチボックスを見て、突き返すことはできなかった。

 ジュリアの手首の傷は癒えたものの、長袖から覗く手首には、まだ白い包帯が見える。

 彼女はどんな心の傷を抱えて今まで生きてきたんだろう。

「ねぇ、美味しい?」

「うん、美味しいよ」

 俺はサンドイッチを口に頬張る。
 ジュリアは俺を見つめ、嬉しそうに目を細めた。
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