奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【10】小さな命
【フローラside】

 ――四月下旬。
 アダムがマジェンタ王国に帰国し、月日は流れた。

 一人残された私は、寂しくて堪らなかった。自分から別れを告げたのに、それすらも後悔していた。

 アダムを追い掛けて、ルービリアに戻りたかったけど、ジュリアを思うと行動に移すことは出来なかった。

 ガーネット芸術大学の講義を終え、いつものように王立図書館で受付助手の仕事をする。アダムがいなくなっても、私の日常は変わらない時を刻む。

 図書館の受付で返却作業をしていると、目の前にシルエットが浮かぶ。

 アダムなの……!?

 見上げると、そこには……。

「ピエール……」

「フローラ、久しぶりだね。元気か?」

 久しぶりに逢うピエールは、穏やかな眼差しをしていた。出逢った頃の優しい眼差しに、鼓動はトクンと跳ねる。

「仕事が終わったら、俺に少し時間をくれないか?話がしたいんだ」

 困惑している私に、ピエールは頭を下げた。

「頼むよ。少しでいいから話がしたいんだ」

「……わかった。三十分したら終わるから、待ってて」

「うん。ありがとう」

 ピエールが図書館から出たあと、私は複雑な気持ちだった。

 仕事を終え、外に出るとピエールが木製のベンチに座り私を待っていた。

 赤い夕陽がピエールのシルエットをなぞる。

 以前、アダムが座っていた場所に、ピエールが座っている。アダムの姿とピエールの姿が重なり、私は動揺を隠せない。

「待たせてごめんなさい」

「いや、俺こそ突然来てごめん。フローラ、アダムのことはもういいのか?」
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