奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ピエールの口からアダムの名前が飛び出し、緊張が走る。

「俺、アダムに言われたんだ。フローラのことを頼むって、フローラの傍にいてくれって……」

「えっ……」

 ピエールの言葉に、動揺が隠せない。

「俺さ、フローラとあんなことがあって荒れてたから。アダムに言われなかったら、進級も危なかった。アイツに叱咤されて、目が覚めたんだ」

「アダムが……そんなことを……」

「俺、プランティエ大学で医学を学び、必ず医師になる。他の女性とは別れた。フローラのことをもう傷付けたりしない。だから、もう一度やり直したいんだ」

「でも、私は……」

「アダムに言われたからじゃない。俺がフローラの傍にいたいんだ」

 ピエールが私の手を握る。

「ピエール……。私達はもう戻れないよ」

「わかってる。元に戻るんじゃない。今日からまた始めたい」

「今日から……」

「そう、初めて出逢ったあの日のように……。初めからやり直したい。フローラ、俺と付き合って下さい」

「ピエール……」

「それに……アダムはジュリアと付き合ってるんだ。アイツ、プランティエでのことは全部自分の責任だと思ってる。アイツはジュリアを放っておけない。優しい性格だから」

 アダムがジュリアと付き合っている……。

「友達でもいいんだ。フローラの傍にいさせて欲しい」

 アダムが……ジュリアと……。

 どうしてピエールはそのことを知っているの?

 ピエールの言ってることは本当なの?

 アダム……
 そんなこと、嘘だよね……。

 ――その日から、ピエールは以前のようにプランティエ大学の講義が終わると、図書館に来るようになった。

 ピエールの気持ちを、私は素直に受け入れることは出来なかった。

 一度は別れを決意したピエール。
 そのピエールと、また交際するなんて私には出来ない。

 なぜなら、私はまだアダムのことを……。
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