奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 私はピエールの問い掛けに、首を左右に振る。

「……病院にはもう行ったから」

 でも、産むなんて……出来るはずがない。

 極度の不安から、感情が高ぶり涙が溢れた。

「フローラ、病院に行ったって、どこか病気なのか?俺も医学生だ。病名を聞けば対処の方法もある」

「私……どうしたらいいの。私……」

 ピエールは突然泣き出した私の肩を優しく抱き寄せた。

「フローラ、言えよ。何があったんだよ」

「私……アダムの赤ちゃんが出来たの」

「アダムの……!?」

 ピエールは絶句し、しばらく黙っていた。

「アダムは……知っているのか?アダムには知らせたのか?」

「アダムには言えないよ。この子を産むことはできない。でもこの子の命を奪うなんて、怖くて出来ない……」

 私は人目も憚らず号泣した。ピエールはそんな私を優しく抱き締めてくれた。

 意を決したように、ピエールが呟いた。予想だにしないピエールの言葉が鼓膜に響く。

「産みたいのか?」

「わからない。でも……」

 私を抱き締めていたピエールの手に、力が入る。

「俺が……この子の父親になってやる」

「……ぇっ」

「俺が父親だ。この子は俺の子だ」

「ピエール、何を言ってるの?そんなの無理だよ」

「無理じゃないよ。俺、決めたから。フローラ、俺達結婚しよう」

「そんなこと……出来ないよ」

 ピエールは真剣な眼差しを、私に向けた。
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