奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
 ピエールは煙草を口にくわえ火を点けた。

「ルービリアにもういない?」

「クビにでもなったのかな」

「車のトラブルでクビか。ヴィリディ伯爵は厳しい人なんだな」

「そうだな」

 ピエールは俺の肩をポンッと叩いた。

「そう落ち込むなって。俺がさ、可愛い女子を紹介してやるからさ。それよりマルティーヌ王国プランティエ大学の短期留学どうする?」

「短期留学って、本当はサマーバケーションを利用したキャンプやリクリエーションに参加するだけだろう。興味はあるけど、どうせ留学するなら、サマーバケーションじゃなくて交換留学生として、一、二年じっくり学びたいんだ。そうすれば特待生扱いで学べるから」

「留学費用を気にしているのか。金銭的に厳しいなら、俺が学長に直談判するよ。アダムは成績トップの特待生なんだから。さらにワンランク上を目指せば、この国の財産になる」

 直談判か……。
 金銭的なことが絡むと、ピエールはロンサール公爵家の令息なのだと改めて実感する。

「……ありがとう。でも自分で働きながら何とかするよ」

 大学二年の俺は、ルービリア大学よりも設備や医療技術の整ったプランティエ大学でも、医学を学びたいと常々考えていた。

「そっか。サマーバケーションでプランティエ大学を下見してきてやるよ。マルティーヌ王国の女も一度は経験してみたいしな。コバルトブルーの瞳に透き通るような白い肌。魅惑的なボディ。青春を謳歌しないとな」

「何言ってんだよ。ピエールには恋人がいるだろう」

 親友ながら、ピエールの言葉には呆れる。

「シャルルか?たくさんいる彼女の一人だけど。俺、まだ絞り切れないんだよ。公爵令嬢は我が儘で疲れるんだ」

「何だよそれ。ピエールも公爵家の人間だろう」

「だから嫌なんだよ。俺は公爵家同士の政略結婚をするつもりはない。結婚相手は自分で見つけるつもりだ。まだ運命の女に逢えてないだけさ」

「運命の女って……。そんな女性本当にいるのかな?」

「アダムは運命を信じないのか?俺は信じてるよ」

 ピエールは笑いながら煙草を吹かした。

 運命の人には……もう出逢っている。
 
 でも……あの日に見たパステルカラーの虹のように、彼女も一瞬で消えてしまった。
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