奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【11】なくした記憶
 ――目覚めると、周りは白い壁に囲まれた室内だった。

 ベッドに横たわる私の腕には点滴の管。
 白いカーテンがゆらゆらと揺れている。

 ここは病院……
 私は、どうして病院にいるの?

「気がついた?大丈夫?気分は悪くない?」

 サラサラの金髪。グリーンの瞳が心配そうに私を見つめている。優しく声を掛けてくれる男性が、私には誰なのかわからなかった。

「あの……。私はどうしてここに?あなたは……誰ですか?」

「えっ?俺がわからないの?」

「私は……私の名前は……?」

 私は、自分の名前が思い出せなかった。

 私は……誰?
 どうして……病院に?

 男性は私の様子に驚き、慌てて医師を呼んだ。医師と看護師が病室に入ってくるなり、私に質問を浴びせた。

「ご自分の名前は言えますか?」

「……わかりません」

「年齢は?ご両親の名前とか、在籍している大学名とか、何か覚えてることはありませんか?」

「いえ……何も覚えていません。思い出そうとすると頭が重くて……。ただ……」

「何でも構わないから、覚えていることを話してみて下さい」

「虹が……」

「虹?」

「瞼を閉じると、綺麗な虹が頭の中に浮かぶの……」

「虹ですか。幸い暴走車はあなたの目前で停止しました。車と接触はしていません。外傷は仔猫を庇ったためにできた擦り傷程度。脳も異常なし。これは、強い恐怖に直面したために起こる一時的な記憶障害でしょう。大丈夫ですよ。失った記憶は必ず回復します。ただその時期がいつになるのか、医師である私にも断定はできません」

「フローラが、記憶……障害」

 医師の言葉に、傍にいた男性が絶句する。
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