奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ご家族はマジェンタ王国王都ルービリアですよね?」

「ルービリア……?あの……ここは何処ですか?」

「ここはマルティーヌ王国王都プランティエですよ。あなたはガーネット芸術大学の学生証を持っていました。学生証の名前はフローラ ヴィリディです。失礼ですが、あなたは彼女のご家族ですか?」

 医師が男性に声を掛けた。
 彼が誰なのか思い出せないが、懐かしい感じがした。

「俺は彼女の婚約者です」

「婚約者……?」

 私は驚きを隠せない。
 私がこの男性と婚約していたなんて……。

「先生、彼女は妊娠しています。赤ちゃんは無事ですよね?」

「赤ちゃんに問題はありません。出血もなく、元気ですから安心して下さい。婚約者が傍にいらしたなら、安心ですね」

「彼女の家族には、俺が連絡します」

「宜しくお願いします。記憶障害もあるし、妊娠されているようなので暫く入院した方がいいでしょう。一週間くらい安静にしていれば記憶も戻るかもしれません。婚約者のあなたが傍にいれば、彼女の記憶障害も早く回復するかもしれません」

「はい、先生ありがとうございました。今後とも宜しくお願いします」

 医師は看護師と共に病室を出て行く。
 私は傍にいた男性に視線を向けた。

 高身長で整った顔立ち。
 凛とした立ち振る舞い。
 高貴な家柄の子息に違いない。

 彼が……私の婚約者……?

「あの……」

「どうしたの?」

 男性が優しい眼差しを向けた。

「私の名前はフローラ?」

「そうだよ。君の名前はフローラ ヴィリディ。ヴィリディ伯爵令嬢だ。マジェンタ王国王都ルービリアにはご両親と妹が住んでいる。君はガーネット芸術大学で美術を専攻していたんだよ」

「私がガーネット芸術大学で美術を……」

「そうだよ。俺はピエール ロンサール。ロンサール公爵の子息だ。マジェンタ王国王都ルービリアのルービリア大学に在籍していたが、今はプランティエ大学医学部に留学中なんだ。俺は君の婚約者なんだよ」

「あなたは私の婚約者……」
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