奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【ピエールside】

 俺は双方の親に連絡をした。
 フローラの入院、二人ともまだ学生の身でありながらの結婚、しかもシャルルとのこともあり、俺の父は当然のことながら激怒した。

 でも、フローラの妊娠を告げると、世間体を重んじる父は、俺達の結婚に反対はしなかった。

 俺は結婚を許して貰う代わりに、父の出した条件をのむ。

 それは『ルービリア大学には戻らず、このままマルティーヌ王国のプランティエ大学を卒業し、マルティーヌ王国で医師免許を取得する』というものだった。

 学生の身でありながら、留学中に女性を妊娠させてしまったという事実を世間に公表すれば、ドウゴール公爵家との諍いも起き、ロンサール公爵家の名を汚すとでもいうだろう。

 帰国しない代わりに、両親は卒業までの学費や結婚後の生活費、全ての資金を援助してくれる事になった。資金援助をすることで、厄介払いでもしたつもりなのだろう。

 そして、フローラの父親は……
 フローラの事故による記憶障害。
 妊娠と言う事実に困惑し、すぐにプランティエに来ることになった。

 この時の俺に迷いはなかった。

 アダムに申し訳ないという気持ちもなかった。アダムは妊娠したフローラを捨ててマジェンタ王国に帰国したのだから。

 俺は本気で、フローラの赤ちゃんの父親になりたいと、そう思ったんだ。

 だから……
 俺はフローラに嘘をついた。

 婚約者だと……嘘をついた。
 お腹の赤ちゃんは俺の子供だ。
 アダムの子供じゃない。

 俺はフローラの記憶が永遠に戻らない事を願った。

 ――二日後、フローラの父親、ヴィリディ伯爵がプランティエを訪れた。俺はプランティエ駅まで迎えに行き、プランティエ大学附属病院まで車で案内し、フローラとの経緯《いきさつ》を説明し正式に結婚を申し込む。

 ヴィリディ伯爵はフローラの意思を確認してから、返事をすると述べるに留まった。

 病室に入ると、ヴィリディ伯爵はフローラの手を握った。フローラは驚いたように目を見開いた。

「あの……あなたは?」

 フローラは自分の父親の顔も覚えてはいなかった。

「フローラ……なんということだ。本当に分からないのか?お前の父親だよ」

「お父様……」

「そうだ。フローラ……どうしてこんなことに」

 困惑して取り乱しているヴィリディ伯爵。
 フローラは助けを求めるように、俺に視線を向けた。

「お父様。私のことは心配しないで。私にはピエールがいるから……。彼はプランティエ大学の医学生なの」

「ピエール君はプランティエ駅まで迎えに来てくれたんだよ。車の中で今日までの経緯《いきさつ》は聞いた」

 ヴィリディ伯爵が俺に視線を向ける。

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