奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
「ピエール君はロンサール公爵のご子息だ。当家にとって申し分ない縁談だが、フローラの気持ちを確かめたくてね」

「お父様。私は……ピエールと結婚したいと思っています」

 フローラの言葉を聞き、俺は安堵する。
 この瞬間でさえ、フローラの記憶が戻るのではないかと、不安でならない。

「ヴィリディ伯爵、俺はフローラさんと結婚したいと思っています。フローラさんは妊娠しています。どうか……結婚を認めて下さい」

「フローラは記憶をなくし、何も覚えていないんだよ。それでもいいのですか?」

「はい、彼女がどんな状況でも、俺の気持ちは変わりません。両親にも全て話してあります。プランティエ大学を卒業し医師免許を取得するまで、生活費は援助してもらうことになっています。フローラさんに苦労はさせません。ロンサール公爵家に恥じない豊かな生活をお約束します」

「ロンサール公爵がそこまで言って下さるなら、フローラはガーネット芸術大学を休学させるしかありませんね。フローラの休学手続きは私が致します。挙式はどうするつもりですか?まだピエール君は学生だ。記憶障害で身重の新婦では、ロンサール公爵に申し訳が立たない」

「フローラのことは全て俺の責任です。記憶障害はいずれ回復するだろうと担当医が申しておりました。ですが、フローラをロンサール公爵家に迎え入れるためにも、挙式披露宴は安定期に入ってから、是非執り行いたいと思っています。入籍だけ先にさせてもらえませんか?必要書類は全て父が整えてくれているので」

「ロンサール公爵がそこまで……。そうですね。妊娠しているんだ。入籍は早い方がいい」

 フローラの父親は深く頷いた。
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