奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
――結局、あの雨の日に出逢った彼女は、ヴィリディ伯爵家で以前働いていたということしかわからなかった。
ピエールのいう通り、運命の出逢いが本当にあるならば……。
彼女に……またいつか何処かで、逢えるのかもしれない。
だが、その可能性もゼロに等しい。
感傷にひたっていると、鼻にかかった甘ったるい声が背後から響いた。
「ピエール!ここにいたんだぁ~」
ピエールの恋人、シャルル ドウゴール。ドウゴール公爵令嬢で俺達と同じ二十歳。
美しい金髪をクルクルと巻き髪にし、派手なメイク。公爵令嬢にも拘わらず、わざわざピエールと同じ医学部に入学し、片時もピエールの傍を離れない。
将来の政略結婚の相手、即ち親同士が決めた婚約者だ。ピエールも満更でもないくせに、時折シャルルに冷たくしては楽しんでいる。
「シャルル、俺に何か用か?」
ピエールは吸いかけの煙草を傍にあった灰皿に捻り潰した。
「冷たいのね。ずっと捜してたのよ。今夜は一緒に舞踏会に行く約束でしょう。お父様から聞いてるはずよ」
「そうだったかな?」
「舞踏会で私達を披露するそうよ」
「《《私達》》?俺は政略結婚はしない。シャルルだって、そう言ってただろう。二人並んで披露するなんて、真っ平だよ」
「私はピエールを満足させる自信はあるわ。ピエールは自信がないの?」
「バカバカしい。俺を誰だと思ってんの?」
くだらない痴話喧嘩だ。
聞いてるこちらがバカバカしい。
シャルルの隣には、初めて見る女子がいた。栗色の髪は肩より少し短め、柔らな髪は時折風に掬われ、優しく揺れている。
大きな瞳は、恥ずかしそうに宙をさ迷う。
俺は初対面の彼女に、自然と視線が向いた。
「アダム、もしかして彼女に見とれてるのか?」
「ち、違うよ……」
俺は慌てて否定した。
派手で我が儘なシャルルとはあまりにも対照的だったため、自然と目が向いただけだ。
ピエールのいう通り、運命の出逢いが本当にあるならば……。
彼女に……またいつか何処かで、逢えるのかもしれない。
だが、その可能性もゼロに等しい。
感傷にひたっていると、鼻にかかった甘ったるい声が背後から響いた。
「ピエール!ここにいたんだぁ~」
ピエールの恋人、シャルル ドウゴール。ドウゴール公爵令嬢で俺達と同じ二十歳。
美しい金髪をクルクルと巻き髪にし、派手なメイク。公爵令嬢にも拘わらず、わざわざピエールと同じ医学部に入学し、片時もピエールの傍を離れない。
将来の政略結婚の相手、即ち親同士が決めた婚約者だ。ピエールも満更でもないくせに、時折シャルルに冷たくしては楽しんでいる。
「シャルル、俺に何か用か?」
ピエールは吸いかけの煙草を傍にあった灰皿に捻り潰した。
「冷たいのね。ずっと捜してたのよ。今夜は一緒に舞踏会に行く約束でしょう。お父様から聞いてるはずよ」
「そうだったかな?」
「舞踏会で私達を披露するそうよ」
「《《私達》》?俺は政略結婚はしない。シャルルだって、そう言ってただろう。二人並んで披露するなんて、真っ平だよ」
「私はピエールを満足させる自信はあるわ。ピエールは自信がないの?」
「バカバカしい。俺を誰だと思ってんの?」
くだらない痴話喧嘩だ。
聞いてるこちらがバカバカしい。
シャルルの隣には、初めて見る女子がいた。栗色の髪は肩より少し短め、柔らな髪は時折風に掬われ、優しく揺れている。
大きな瞳は、恥ずかしそうに宙をさ迷う。
俺は初対面の彼女に、自然と視線が向いた。
「アダム、もしかして彼女に見とれてるのか?」
「ち、違うよ……」
俺は慌てて否定した。
派手で我が儘なシャルルとはあまりにも対照的だったため、自然と目が向いただけだ。