奪い婚 ~キミの嘘に唇をよせて、絡まる赤い糸をほどきたい~
【12】後悔
【アダムside】

 ―五月―

 マジェンタ王国に戻り、ニヶ月が経過した。

 ジュリアは昼休憩になると、ランチボックスを持って、俺のところにくることが日課になっていた。

「アダム君。講義が長引いて、遅くなってごめんなさい。お腹空いたでしょう」

 ジュリアは俺にランチボックスを差し出す。

「ジュリア、俺の分まで、毎日作らなくていいよ。朝大変だろう?」

「いいの。私が作りたいの。迷惑だったかな?」

「いや……。ありがとう」

 迷惑だなんて、ジュリアには二度と言えない。

 俺達は校庭の木蔭に設置された木製のベンチに腰をおろす。

 ジュリアのランチボックスは、いつも色鮮やかで、メニューもバリエーションに富んでいた。

「いただきます」

 俺は卵サンドを手にとる。

「あのね……アダム君」

「なに?」

「お父様がね、先日マルティーヌ王国に行ったのよ」

「ヴィリディ伯爵がマルティーヌ王国に?」

 マルティーヌ王国と聞き、フローラの顔が脳裏に浮かんだ。

「フローラが事故に遭って入院したらしいの」

「フローラが事故に!?フローラの怪我は?フローラは大丈夫なのか!?」

 俺は動揺していた。
 フローラが事故に遭ったなんて……。

 狼狽している俺に、ジュリアは驚きを隠せない。

「アダム君落ち着いて。フローラは大丈夫だよ。怪我はしてないの。車と接触しそうになったけど、ギリギリで回避したみたいだから」

「……よかった。でもどうして入院を……?」

 フローラが怪我をしていないと聞き、ホッと胸を撫で下ろす。

 その直後、俺は信じられない事実をジュリアから聞かされた。

「驚かないでね。フローラは……ピエール君と結婚したのよ」

 フローラがピエールと結婚……!?
 まさか……!?

 俺は『結婚』という言葉に愕然とした。
 頭を鈍器で殴られたみたいな、激しい衝撃を受けた。
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